黒たまサンのただいまマンガ日記

久しぶりにマンガについてあれこれレビューしてみようかと思います!そんな素朴なマンガ日記です

読み切り短編マンガの傑作『バンコラン――MI6にて』 レビューの巻

みなさん、マンガ大好きですか?

システムオールグリーン!

猫な、ヌイグルミゲーマー「黒たま」ですにゃん。


先日、部屋の本棚でふと目にとめた1冊のマンガ

魔夜峰央さんが描いた作品集『う~ん、マンダム』でした。

 


魔夜峰央さんの、昔の作品を中心にした自選集です。

記念すべき『パタリロ!』第1話をはじめ、バリエーションにとんだ作品がズラリ!

それらをじっくり読み返してみたら、

 『こ、これは!』と喝采を送ってしまう、素晴らしい作品を見つけてしまいました。

 

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どんな作品なの?


ズバリ一言でいえば、闘う男たちの世界を描いたモノ。


軍部による独裁政治が続く『南ウンガル』に、幾度となく革命を企てては失敗してきた革命家『テオドラキス』がいました。
彼らしき男が飛行機事故で死亡したという報せを受けた英国情報部員『バンコラン』。

生前に『テオドラキス』との面識があったため、『バンコラン』は身元確認の要請を受け現地に赴きます。そこで『バンコラン』は、『テオドラキス』の一人息子『ミキス』と数年振りに再会を果たすのですが・・・。

 

 

ワガハイがこの短編マンガを傑作だと感じた理由とは・・・

①色あせない作品性!

この作品は昭和57年に『花とゆめ』に掲載された作品です。平成30年の現在では、ゆうに35年以上経っています。
けれども、画風をはじめ、登場人物の言動、世界観など・・・不思議なことに古臭さを少しも感じない。色あせていないのです。そして、その理由はテーマにもありました。

 


②30ページ余りの物語に、1つのテーマがしっかりある!

短編作『バンコラン――MI6にて』は元々『パタリロ!』に収録されていた作品です。
パタリロ!』といえば、主人公の王様パタリロを中心にしたドタバタギャグ漫画の印象もあります。
けれども、今回パタリロは登場しません。代わりに『バンコラン』を中心にして物語はシリアス風に進みます。

 

 

とはいえ、実質的な主人公は『バンコラン』ではなく、革命家の一人息子『ミキス』なのですが、数年振りの再会で、
勇猛だった少年『ミキス』はまるで女性の様な姿に変貌し、心はすっかり軟弱になっていました。この『ミキス』を通じて読者に問いかけたテーマとは・・・


《本当に、ヒトは見た目で判断できるの?》


久しぶりの再会で、相手が全く同じ外見ならば・・・
懐かしい、全く変わっていないにゃ~(中身も)、と思ったり、
逆に、風貌がガラリと変わっていれば・・・
すっかり変わってしまったにゃ~(中身も)

と思いがち。

 

 

それほど、他人の性格・考え・信条などを判断する際に、風貌や外見が重要な判断材料になります。
そして、対人関係が得意であると意識する人ほどオレは、そいつがどんなヤツなのか?見た目でほとんど判断できるぜ!と、自信を深めます。

ところが、作者の魔夜峰央さんはこの人間心理を巧みに使いました。

 

 

ヒトは見た目で判断できる!
と思っていても、必ずしも相手は内面に併せた風貌をしてくれるとは限りません。
にもかかわらず先入観に囚われ、過信してしまえば、それを逆手にとった相手の演技にまんまと騙される恐れだってあるよ、と作品を通じて教えてくれたのです。

 


更に、傑作だと思った理由は続きます。↓

③不要なシーンがほとんど無い!それでいて情報を詰め込みすぎてもいない!絶妙なバランス感!

 
④『パタリロ!』を知らなくても読める!

 『パタリロ!』に登場する『バンコラン』は腕利きの情報部員ですが、その一方で節操が無い、美少年好きで有名。
けっこう個性の強いキャラクターなのです。けれども、この話では彼の個性は控えめに抑えられています。

 

しかも、『パタリロ!』の外伝的な物語なので、タイトル名『バンコラン』という人物を知らなくても、『パタリロ!』を読んだことが無くても、すんなり内容が理解できるのです!


⑤読後感が強烈!

ネタバレはできるだけ控えますが、

『今 男の闘いがはじまる』

という最後のナレーションで物語は幕を閉じます。

 

 

 ええ?これからどうなっちゃうの?『ミキスの生死は?』『革命は?』

物語の先が気になってしまう・・・にもかかわらず、よくある少年漫画の様に、中途半端で打ち切った風でもない。
『バンコラン――MI6にて』という作品は、他の作者さんだったら、その後の顛末も描いていたでしょう。

 

『う~ん、マンダム』のあとがき部分において魔夜峰央さんは、

『もしこの物語の続きを描くとしたら・・・』と言及されています。

けれども、続きは描かれていません。それでは折角のテーマがぼやけてしまう為かもしれません。テーマを第一優先で、切るべき処で切る、終わらせる処で終わらせる!おかげで、実に強烈なインパクトを残したエンドになっているのです。

 

 

以上、①~⑤という傑作たる理由がある一方で、残念な部分もありました。

それはタイトルです。

『バンコラン――MI6にて』でなく、全く異なるタイトルの方が良かったかも。
何しろ、作品の実質的な主人公は『バンコラン』ではなくて、『テオドラキス』の一人息子『ミキス』なのだから・・・
『ミキス』にちなんだタイトルにした方がより印象に残る短編作品になったことでしょう。

 


それでも、『バンコラン――MI6にて』は・・・
思わず読みながら、手に力が入ってしまう程になかなかお目にかかれない読み切り短編マンガの傑作。ちなみに文庫版『パタリロ!』選集9巻にも収録されていた様な気がします。良かったら、読んでみてくださいにゃ。